3つの〈ユカ〉のある家
【日本スタイルへの回帰】
この住宅の提案するもの・・・それは日本人古来の生活スタイルを見直そうとする試み「日本スタイルへの回帰」です。マンションなどに代表される現代の日本人の生活はそのほとんどがフローリングにスリッパ履きで、イスやソファの生活スタイルとなっています。しかし、現状は床に座る生活は完全に廃れたわけでもなく、日本ならではのコタツや座椅子などは今でも大活躍ですし、さらに最近では「コタツソファ」なるものまで発明されています。これまで日本の住宅ではその機能に応じてさまざまな形の床<ユカ>が存在していました。土足のままで汚れてもいい床や、靴を脱いで腰をおろしたり寝転んだりできる床などです。そんな日本的なスタイルをもう一度見直し、日本人の暮らし方にあった新しい住宅として『3つの<ユカ>のある家』を提案してみました。
ひとつめは床に座ることのできるタタミが敷かれた小上がりの床。たとえば晩ゴハンのあと、そのままタタミの上でゴロンと横になってくつろげる・・・・・そんな茶の間的な空間を『タタミリビング』として再現しています。食事のスペースとくつろぎのスペースを合わせて全体で9帖ほどの広さで、可動の障子でゆるく仕切られたタタミの部屋です。この部屋は床が一段高く、ちょうどイスくらいの高さになっていて、どこでもちょっと腰を掛けることができます。食卓テーブルは掘りごたつ式なのでタタミに座りながらも体に負担が掛からないようになっています。
ふたつめは、家の中でもっとも低いレベルの床、「土間」です。ここでは、玄関からキッチンまで低いレベルの床が続きます。もちろん、下の床なので、土足で汚れても構わないような床になります。『玄関土間』はタタキの床となっていて、この家の中心となるすこし広めの明るい部屋です。収納ベンチや踏込みに腰掛け、ご近所さんやお客さんを招いてお茶したりする、ちょっとした集いの場です。
台所も一段下がった床タイル張りの『土間キッチン』です。汚れを気にせずに調理ができ、いままでの料理スタイルが変わるかもしれません。また、この食卓テーブルはキッチンカウンターと連続して一体となっていて、「台所」と「食卓」がより近く感じられます。この一体となったふたつの空間『タタミリビング』と『土間キッチン』で、家族といっしょに過ごす時間が増えることでしょう。
みっつめは、唯一2階にもうけられた部屋『スノコの間』です。従来、スノコは土間と部屋との間の中間的なユカとして存在していました。土足から上にあがるための踏み台だったり、水場に敷いて水を切る役割のある床だったり・・・そんな特徴のある「スノコ」を床の仕上げとしたのがこの『スノコの間』です。この隙間を通して1階と2階を光や風や音が行き来します。南に向いた大きな窓からの光はスノコを通して下に届き、玄関土間をやさしく照らします。また、夏場は空気を集める風のトンネルとなり、家全体の風通しを良くします。そんな特徴を活かして物干しやお昼寝の場所としていろいろな使い方のできるスペースです。