日本の住宅の平均寿命は30年といわれています。
これは欧米に比べると半分にも満たない年数です。しかしこれは一概に「日本の住宅は寿命が短い」と言いきれません。日本の住宅はその風土に適合した建築的構造や日本独自の経済的な生産構造等により長年培われてきた結果なのです。
しかし、こういった状況を少しでも改善していこうとする流れの中で、このたび「長期優良住宅の普及の促進の関する法律」が平成21年6月に施行されました。要約すると「長年にわたって良好な使用ができる優良な住宅を普及ていくため、長期優良住宅という制度を作りました。基準をクリアした家を建てた人にはいろんな面で少し優遇しますよ。」という制度のようです。
しかしこれはあくまでも任意の制度なので受けても受けなくてもいいようですが、少しくらい建築費が上がっても、住宅の性能が高くなるのであれば受けない手はないのではないでしょうか?
経済的におトクな面が大きく分けて2つあります。ひとつは住宅を手に入れるにあたって収める税金(所得税等)がおトクになります。経済対策により住宅ローン減税が延長されましたが、この認定を受けると控除額がさらに増えるようです。
そして、もうひとつは住宅を建てるにあたっての借金の金利がおトクになります。さらに、独立行政法人の行う「モデル事業」としてモニター的に家を建てると補助金がでたりするオプションもあるようです。
おおまかには次のようなことです。まずは自分の家を計画するにあたって、定められた性能基準を満たすよう建築家に依頼しましょう。耐震性や省エネ、維持保全等<10のポイント>をクリアした住宅の計画です。そしてその内容を図面化し認定申請書を提出、そして審査機関で審査され合格すると、はれて行政庁が認定をしてくれるようです。建築確認同様、事前に申請し認定を受ければ、晴れて着工できます。細かい理屈については建築家にお任せしましょう。
長期優良住宅の設計基準には次の4つの対策等級が課せられています。
これらは住宅性能表示制度にうたわれている等級を長期優良住宅でも採用することになります。まず①耐震等級に関しては等級2以上の性能が必要となります。通常の木造住宅では、小規模建物として壁量計算などを行いますが、長期優良では基準法が想定する「極めてまれに発生する地震力」の1.25倍の力に対し倒壊、崩壊しないことを想定しています。具体的には次のステップによって検証が必要となります。
①壁量計算(準耐力壁を加えた検討が必要)
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②壁の配置バランスの検討
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③床倍率の検討(ネダレス工法の採用や吹抜け部分の火打ち梁に留意)
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④接合部の金物(>胴差と通し柱、外周横架材の接合部の検討)
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⑤基礎(スパン表による)
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⑥横架材(スパン表による)
太文字部分が長期優良独自の検討内容となるため、通常よりもかなり詳細な計算が必要となります。
今回は初めての構造検証となったので、かなり時間がかかりましたが、一度エクセルデータを作成しておくと次回からは比較的スムーズにできそうな感じです。
最後に気になった所を数点・・・
長期優良住宅法では躯体の耐久性能を保ち、長く住める住宅仕様を定める基準として、住宅性能表示制度の劣化対策に定める等級3を満たすことが条件となっています。
基準項目としては多岐にわたり、数も多く、また通常いままでの木造住宅でも常識的な事例も中には含まれますが、経年変化や劣化に対する明確な考えが基準として示されることは、建築主にとっては将来にわたって安心が得られるでしょう。
では、この「劣化対策等級」ではどのような項目があるのか具体的にみて見たいと思います。
①基礎の立ち上がりを400mm以上とする。(防蟻対策)
〔基礎とはコンクリートの立ち上がり天端まで。ちなみに基準法では300mm以上(告示1347号〕
②地盤の防蟻対策をおこなう
〔通常、べた基礎であればクリアできる〕
③土台には耐久性の高い材種を用い、かつ水切をつける(防蟻対策)
〔ひのき、ひば、べいすぎなど〕
④床下は防湿フィルムあるいはコンクリート床版で防湿し乾燥を保つ
〔べた基礎60mm以上、防湿フィルムであればクリア。床下換気は通気パッキンで確保〕
⑤床下空間は330mm以上確保し床下点検口を設置
〔人通口のない部分ごとに点検口設置〕
⑥外壁は通気工法あるいは防蟻処理を行う(防腐・防蟻処理)
〔地面からの高さ1m以内のK3以上の防蟻処理〕
⑦小屋裏に空間ごとの点検口を設置
〔図面上に小屋裏エリア区分を記入〕
⑧小屋裏給排気口を設置
〔屋根形状により有効面積に違いあり。屋根断熱の場合は小屋裏換気は必要ないが、2重垂木などで通気層が必要になる〕
申請書作成にあたっては、全項目について「設計内容確認シート」に記入、また同内容をすべて図面上に記入が必須となります。
設計上で気になった注意点を少し・・・。
長期優良住宅では、住宅性能表示制度の省エネルギー対策に定める等級4の基準が要求されます。確認項目としては大きく分けて次の3つの項目があります。
建物の断熱工法は、a.充填工法 b.外断熱工法の2通りに区別され、建物の構造、立地条件、建物の部位によって断熱仕様規定を定めています。気をつけておきたいことは、「長期優良住宅その②劣化対策等級3」でもふれましたが、床組みの一般床ではなく、スラブが床となる部分(断熱層がとぎれる部分)の断熱処理の取扱い。
スラブの上にユニット製品を設置する場合
たとえば浴室などユニットバスを設置するときは、基礎断熱(コンクリート立ち上がり部分を断熱)とするか、ユニットバスの床を規定以上の断熱性能のある床にするかのどちらかになります。基礎断熱の場合は床下の機密性を確保する必要があり、また人通口部分は脱着可能な断熱ボードの設置が必要です。一方、ユニットの場合は製品上の認定が必要となりますが、メーカーではオプションで対応可のようです。この場合の床下は通気工法となります。
スラブに直接床を仕上る場合
その部分の床面積が4㎡程度まで省略可能(2009改正省エネ法)玄関部分くらいなら適用できますが、土間倉庫などをつくってしまうと、床断熱が必要となるようです。
これは次の二つの性能基準があります。
a.建具とガラスの組み合わせによる断熱性能 b.ガラスやカーテン庇などの日射遮蔽性能
ここで気をつけたい所は、小窓の規定緩和。基準の改正により、a.断熱に関しては床面積の2%まで、b.日射遮蔽に関してはこれも床面積の4%までは規制の対象外となり、カーテンなど取り付けないであろう部分の小窓は規定からはずせるようになります。また、玄関や勝手口などのドアも規制対象になりますが、面積はガラス部分のみが対象になるようです。
次世代省エネルギー改正では削除された項目が長期優良住宅では引き続き結露防止対策が求められています。
a.繊維系断熱材採用の場合は室内側に防湿気密フィルムを貼る b.外壁に通気層を確保 c.屋根断熱の場合は屋根通気層の確保(二重垂木)
屋根の場合も壁と同じで、屋根断熱は外断熱扱いとなり、断熱性能自体は軽減できますが、外側に壁と同じく通気層を設ければならないようです。